「日々」大川菜々子・常田泰由・二井矢春菜 展 ―版画を中心に―
大川菜々子・常田泰由・二井矢春菜
2023.3.16 thu - 4.1 sat
パンデミックから4 年が経った。未だ収束したとはいえないが、生活を“コロナ前”に戻すという道筋はついてきたし、実際のところ、戻りつ
つあるように感じる。しかしながら、自分の中で以前とは何かが変わった気もしている。
思えばこの数年間、住んでいる家、地域、ひいては国内に留まることを余儀なくされたことで、この国のこと、身の回りのこと、生活に関心を向けざるを得ない状況にあった。外には出られないが、携帯電話を手に取れば世界中の情報が入ってくる。私たちは仮想世界とゆるやかに繋がりながら現実世界を生きている、そう意識するようになった。「ステイホーム」に象徴されるように、いやでも目に入る半径数メートルに向き合わざるを得ず、さらに刻々と更新されるインターネット上の情報にさられる。生活に関する全てについて考えさせられるという状況が、仮想世界からも現実世界からも湧き上がってきたのが、パンデミックの4年だったように思うのだ。
戦後すぐに雑誌『暮しの手帖』を創刊し、長年編集長をつとめた花森安治の仕事を辿っていると、暮らしとは、広義の科学を知ること、経済を知り、化学、哲学、文学、心理学、美術を知ることなのだと思わずにはいられない。花森はそれを平易な言葉と現実に即した形(たとえば製品テストなど)で伝えるので、時としてそのような小難しい分野とは無縁のように感じられる。
しかし、生活という自分をつくるもの、自分をつくってきたものについて考えることは、なかなか硬派でエキサイティングな作業だと気付かされる。私たちの生活は、複雑に絡み合った様々な要素が絶妙なバランスをとることで成立しているに違いない。
さて、本展の3 人の作家は、身の回りのものを見つめ、描き出すという点で共通している。
ふるさとの風景や日常見かけるものを描く大川菜々子。懐かしい風景を見るような抒情性がある一方、スナップ写真のような、どこか乾いた印象も受ける。
常田泰由が描くのは身の回りのものをトレースしたかたち。色と色、かたちの組み合わせにより、日常の会話のように穏やかに呼応する、ユーモア溢れる作品を作り出す。
二井矢春菜は、身近な生きものや自然を観察し、製版と刷りを繰り返しながらゆっくりとイメージを立ち上げ、親しみのある風景を描く。
日々を見つめる彼らの作品は、自分の今ある場所を意識させ、そして、この世界は悪くないと思わせる魅力に溢れている。
Walls Tokyoでは、大川菜々子氏・常田泰由氏・二井矢春菜氏、の作品の展示・販売をいたします。
*展示作品は予告なく変更されることがあります。