「香る頃」
平丸陽子 Yoko Hiramaru
2021.10.1 fri - 11.6 sat
この度、WallsTokyoでは初めてとなる平丸陽子の個展を開催する運びとなりました。平丸陽子は、2002年東京造形大学の絵画科を卒業。抽象画のスタイルをとりながら、身の周りの出来事や日常の風景を描いています。 — 光や音、大気の匂い、樹木や草花の生長がもたらす季節の変化に気づいた瞬間、時空を超え、今どこにいるのかわからなくなる、そんな感覚に襲われることはないだろうか。自然の営みは、循環しながらも同じ瞬間が生成されることは二度とない繊細かつ絶妙なバランスの上にある。生活という現実の中で地球のもたらす自然の変化にふと気づいたとき、人は人智を超えた存在に触れる。創造主とも呼ばれるそれは、自身の存在をまるでヒントのように示唆するだけで全体を顕にすることはない。 平丸は、目にはっきりとは映らないが確かに存在しているものを描くアプローチとして抽象という表現方法を選んでいるのではないだろうか。アラベスク文様*がそうであるように。彼女がパターン(文様)を多用するのもおそらく、パターンこそ抽象形態を洗練させ、生命サイクルの表現を純化させたものだからであろう。 それはまるで言葉では語ることができない現象を絵画という形に乗せて、優雅な身振りで物語ろうとしているかのようだ。抽象画が形象の問題として捉えられることを超え、絵だけが語ることのできる「ことば」として立ち現れるとき、平丸の絵画は、その特別な言語がいかに豊かで実りあるものかを教えてくれるのだ。 *アラベスク模様 人物像を描くことを禁じているイスラム教は、アラベスクと呼ばれる幾何学文様によって自然の背後にある統一要素と永続性、秩序を表現するといわれる。