柿崎覚展
柿崎覚 Gaku Kakizaki
2020 11/11 wed-12/12 sat wed-sat 水-土 12:00-18:00 sun-tue 日-火 closed
柿崎は、小石川植物園や新宿御苑、井の頭公園といった、都心部の緑地帯に赴き、風景を描き写します。そこにあるのは、雄大な自然とは異なり、人間の管理下にある、いわば飼い慣らされた自然ですが、だからこそ安心して向かい合い、身を置くことができる穏やかで心地よい自然です。東京で生まれ育った柿崎にとって自然とはそのようなものであるのかもしれません。 柿崎の、厚塗りの油絵具によって描き出されるパノラミックな風景画は、粗いマチエールにもかかわらず、色味の変化を丁寧に捉えているために、対象が明確に浮かび上がって見えます。一見するとクラシカルな油画といった印象を受けますが、西洋の常套的な風景描写で使われる透視図法における中心点がありません。彼の描く静物画には、それがより顕著に現れています。並んだりんごと洋梨がキャンバスの端で切られており、画面内に心地よくモチーフが配置された西洋絵画を見慣れた目には少々不自然に映ります。彼はキャンバスの中に一つの視点を基にした風景をテクニカルに再現しようとしているのではなく、まるで全方向に向かって広がる世界をキャンバスの形に切り取っているかのようです。 自然とは、本質的に中心がなく、柿崎もまた、世界を中心無きものと捉えているのではないでしょうか。今世紀、中心無き世界へのシフトは加速するばかりです。特定の人物の号令のもと皆が動くのではなく、それぞれの個人が自らの意思を表明し、行動する。それを可能にしているのは言うまでもなくインターネットやSNSの普及であり、私たちはそういった世界を生きている。柿崎の2次元空間を目の前にすると、彼の描く自然は現代社会のメタファーなのではないかと思わずにはいられません。 本展は、ギャラリーの目の前にある小石川植物園をテーマにし、屋内に植物園を展開させるイメージで構成。新作を中心に約10点の作品が並びます。ぜひ、ご高覧ください。