(左)2024年パリオリンピックの聖火台
(右)1783年パリのシャン・ド・マルスで行われたシャルル兄弟による最初の水素気球飛行の様子
フランス、パリで開かれたオリンピックが閉幕。パリらしさ、フランスらしさにこだわった開会式は見ものでしたが、その演出に賛否分かれるシーンもありました。私たちが「あれはよかった」「あれはよくなかった」とネットワーク上でさかんに意見交換された出しものにはそれぞれに意味があり、「美しい」「悪趣味だ」と感覚のみで評価してしまうのは少々もったいないように思います。
例えば、中空に浮かぶ聖火台。幻想的で美しく「これぞフランスのお家芸!」というデザインですが、あの聖火台のデザインは、閃きがデザイナーの頭を雷がごとく貫いて生まれたものでは(おそらく)なく、1783年にフランスの発明家ジャック・シャルルがパリのシャン・ド・マルス公園で水素気球での有人飛行を成功させたことに由来しているのです。あの聖火台を見て、当時描かれたイラストレーション −テュイルリー宮を背景に広がる野原の中に浮かぶ気球− を思い浮かべる人も多かったのではないでしょうか。
図像を見てそこにどんな意味が込められているいのかを読み解いていく、それは美術鑑賞の上でも欠かせない要素の一つです。
WALLS TOKYOで開催中のKOANによる「The Sacrifice」展。これには二つの西洋美術における伝統的モチーフが引用されています。「カリアティード」と「聖セバスチャン」です。
KOAN《Boss Fight》 2024 紙にアクリル、コラージュ
カリアティードとは、古代ギリシャの神殿建築で、梁を支える役目をする女性立像の形をした柱のことをいいます。19世紀末から20世紀にかけて活躍した彫刻家オーギュスト・ロダンがこのカリアティードを今でいうところの”二次創作”したのが《石を負うカリアティード》で、この像は石を背中に担いでうずくまっている女性の姿をしています。頭で支え続けてきた天井が崩れ、石の塊となった梁をなお背中で支える姿は、全人類にのしかかる重荷を一身に担う姿を象徴しているといいます。
KOAN《Between a Wolf and a Shepherd, Who do you Think Has Killed the Most Sheep?》
2024 紙にアクリル、コラージュ
聖セバスチャンはキリスト教の聖人で、3世紀にディオクレティアヌス帝のキリスト教迫害で殉教したといわれています(迫害時には絶命しなかったともいわれている)。美術や文学において彼は、木(あるいは柱)に縛り付けられ、複数の矢を射られた姿で描かれます。黒死病からの守護、兵士の守護聖人として信仰される一方で、「均整のとれた体躯の青年が木に縛られ、複数の矢を受けながら命懸けで信念を貫く姿」は、さまざまな秘められた解釈を内包しながら、信仰のための自己犠牲を象徴するモチーフとして取り上げられてきました。
今回、KOANはこの二つの図像を、緩慢な/敏速な、与える/受ける、押し潰される/貫かれるという対比とともに犠牲の象徴として描き出します。そして芸術に身を捧げる自身の姿をこれらの作品に投影しているに違いありません。
さて、「図像(アイコン)」は生活のそこここに存在しています。私は名古屋のホテルに泊まった時にアイランド型になっている洗面台の鏡の裏が鱗の模様になっていることに気づきました。これにはおそらく意味があると思うのです。私は名古屋城の金の鯱鉾にインスパイアされていると思ったのですが、どうでしょうか。ホテルの装飾にはその土地のシンボルが散りばめられていることが多いので、そんなちょっとした図像探しをすることも楽しいと思います。
text:Song Wei
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KOAN
本コラムは、2024年8月12日付のニュースレターにて配信いたしました。
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