INTRODUCTING ARTISTS
August Sander
アウグスト・ザンダー
ザンダーは、スタジオで著名人やブルジョワ階級を撮るれっきとした肖像写真家でそれを生業としていたが、スタジオでの撮影とは別に、戸外で農夫をはじめとしたいわゆる小ブルジョワとされる人々を「野外で」「あるがまま」を写すという試みを始めた。これは、それまでのように「スタジオ」で、「著名人・有産階級」を撮影し、修正をいれて「まるで絵画のように仕上げる」ことが常套手段であった肖像写真からのコペルニクス的転回を見せた画期的なことだったといえる。 1920年から21年にかけて、ザンダーは写真にぼかしを入れることで絵画のような風合いを出す手法をキッパリと捨てた。絵画と写真は異なるものであり、絵画のお手軽な代替物としてではなく、写真自体が独自の価値を持つと確信したからである。彼の考える写真の独自性とは、絵画は主観や手業によって対象が歪められることが不可避である一方、写真は被写体をあるがままに提示することが可能だというものだ。 美化の手が加えられていない写真によって、社会全体の構造を捉える目録を作ることーそれが『20世紀の人間たち』が目指したものであったが、ザンダー存命中は印刷されるに至らなかった。 ザンダーは『20世紀の人間たち』についてこのような言葉を残している。 ------------- 写真は、事物をすばらしい美しさで再現することもができるが、一方でおそろしいほどの真実性をもって再現することもできるし、また、途方もなく欺くこともできる。 私が、健全な人間として、不遜にも、事物をあるべき姿やありうる姿においてではなく、あるがままの姿において見るとしても、これを赦していただきたい。 なにしろ、私にはそうしかできないのだから。 はったりや、見せかけや、わざとらしさのなどの砂糖をまぶした写真くらい、私の嫌いなものはない。 だから私には誠実な方法で真実を語らせていただきたい。われわれの時代について、そして 人間たちについて。 ------------- ダイアン・アーバスやベッヒャー夫妻など、彼がドイツを代表する写真家たちに与えた影響は大きい。 参考資料:『アウグスト・ザンダー20世紀の人間たち:肖像写真集:1892-1952』 グンター・ザンダー編;山口知三訳 リブロポート, 1991
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