INTRODUCTING ARTISTS
Damien Hirst
ダミアン・ハースト
常にセンセーショナルで議論を呼ぶ作品を作り続けてきました。彼は現代芸術の代表的人物であり、イギリスのコンセプチュアルアーティストです。また1995年にはイギリスが誇る現代アートの最高峰とも言える賞「ターナー賞」を受賞しました。 代表的な作品として、親子の牛を切断し、ホルマリン漬けにする作品やスピンマシンによる絵画、タバコの吸殻を詰めた拡大灰皿、医薬品を詰めた薬箱、その他拾得物を詰めた珍品箱、ダイヤモンドで作り上げたプラチナ鋳造の人間の頭蓋骨などがあります。これらは、芸術と美、宗教と哲学、生と死の狭間など、彼のコンセプトとするところから制作されました。 拾った素材やアシスタントを使い、作品を制作するスタイルは、ジェフ・クーンズなどの芸術家の手の役割を意図的に否定した同時代の作家たちと結びついています。 ダミアンハーストの”Mother and Child,Divided”ターナー賞を受賞した作品は一見すると真っ二つに切断された残酷な二つの死骸にしか見えない作品です。けれど、この二つの作品の間を歩くとき、牛から子牛が分離している姿を見ることで、この作品を深く読み解くことができます。この作品が発表されたヴェネツィアの展覧会のイメージが聖母とキリストの子供であるとすると、残酷なイメージだけではないはずなのです。 また、この作品以前に作られたThe Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living というイタチザメを吊り下げてホルマリン漬けにするという作品では、最初に設置されて以来、腐敗が避けられないために別のイタチザメの標本に変えられました。これは、サメから連想される死のイメージ、時間の経過とともに摩耗する標本により、私たち誰もが避けられない死を意識させます。 2022年国立新美術館で開催された、『CHERRY BLOSSOMS展』ではコロナ禍において行うことが難しくなったお花見の代わりと言わんばかりに、沢山の来場者が美術館を埋めました。作品から自己を遠ざけ、大量生産、そして描くという行為を限りなく減らした、彼の絵画シリーズSpot Paintingsとは打って変わって、一人で大画面の桜を描き続けたそのエネルギーと執念のようなものは目を見張ります。桜というキャッチーなモチーフの選択や、来た人がその絵の前で写真を撮るという行為なども含めて、やはり彼がインスタレーションの作家であることは認めざるを得ない事実です。また、桜自体が10日から二週間程度で散ってしまう様なども、彼のコンセプトである生と死の狭間という概念にも通ずるでしょう。
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